「菊?」
アーサーが菊に近寄る。
菊は縁側でうつむいていた。
「アーサーさん。」
「どうした?」
「この子…。」
手にはちいさな卵があった。
「それ…。」
「庭に落ちてたんです。暖めたら小鳥が出てきますか?」
「どうだろう。やってみるか。」
それから毎日暖め続けた。
ある、晴れた日。
「アーサーさん!」
アーサーが駆け寄って菊の両手を見るとそこには殻と小鳥がいた。
「かわいいですね。」
「だな。で、名前どうするの?」
「えっと…アキ…ってどうです?」
「アキ…。」
「ほら、今この季節を秋って言うんですよ。Fallです。」
「そうか。」
「あと…」
「ん?」
「アーサーさんの『ア』と…」
「菊の『キ』だな!じゃ、一緒に育てよう。」
「はい。」
菊の顔には、とてもうれしそうな笑みが溢れていた。
それから、何を食べるのか、どうしたらいいのか。調べたり育てたりしているうちにアキは大きくなっていった。
「元気そうですね。」
「そういえば、アキはずっとここにいるのか?」
「…そうですね。でも、もう少しだけ、一緒にいいですか。」
このままこの子が離れていくと、アーサーさんと一緒に育ててきた子の生活も、一緒に飛んでいってしまう。分かっているけど、もうちょっと一緒に、育てて、この子の話をしたい。
そんな思いがいっぱいだった。
でも、籠の中で羽を広げたり羽ばたかせたりしているアキを見ると、飛ばせてあげたいという気持ちが大きくなる。
菊はアーサーにこの思いを伝えた。
「大丈夫だって。また花でも動物でも一緒に育てればいいさ。」
「はい。」
かごの扉を縁側で開けた。
秋の晴天は気持ちのよい風が吹いていた。
一時、強い風が吹くとそれに乗ってアキは飛んでいった。
「元気でね。」
二人で空に溶け込んでいくアキを見届けていた。