「菊?」
菊がいるはずの部屋の前でアーサーがいくら呼んでも、ノックしても返事かない。
「今日はずっとここにいるって言ってたのにな…。」
心配になってドアノブを掴む。
「入るぞ。」
ドアを開けようとするが、ドアはちっとも開かない。鍵が閉められているのだ。
「くそっ!」
ドアを思いっきりアーサーは蹴り開けた。
「暑っ…菊?」
こもったように暑い部屋。
菊がいつも座っている椅子には誰もいない。
机の上には書きかけの書類が散らばっている。
アーサーがあわてて机に寄った。
「菊!」
アーサーの足元に菊が倒れていた。
そっと抱くと菊は腕の中で小さく呼吸しているのが分かった。
「大丈夫か?」
アーサーが空いている手で菊の顔を撫でる。
とても熱く、ほてっていた。
菊が目を覚ましたのは真っ白な部屋の中だった。
「菊ぅ」
起き上がった菊にアーサーは抱きついた。
「よかった!」
「ここは…」
菊はとろんとした目で部屋を眺め回した。
「病院だよ。…なんであんな暑い部屋にこもってたんだ?」
「えっ?あ、クーラーが途中で壊れたことに気付かなくて…。」
「何でだよ。」
「書類の期限があと三日…あっ!私、どのくらい寝てました?」
「二日ほどだが。」
「明日じゃないですか!どうしましょう…。」
そういって菊はベッドを下りたが、ずっと寝ていたのでふらついていた。
点滴の取っ手に掴もうとしたが、間に合わず、アーサーに抱かれることになった。
「寝てろ。俺がやっておくから休んでおけ。」
「だめです。」
「じゃあ、持ってきてやるからここでおとなしくしていろ。」
菊が口を開く前にアーサーは病室から出て行ってしまった。
書類は何とかアーサーに手伝ってもらいながら提出は間に合った。
めでたく、菊も数日後に退院した。