「温泉行ってみたいな…。」
夕食時、何気ないアーサーの発言に菊は何気なく答えた。
「それなら今夜ここで一緒に入ります?」
「えっ?」
「あ、大きなお風呂がいいんですよね。…すみません…。」
アーサーの反応を見てとても恥ずかしいこと言ってしまった…と頬を染めながら後悔する。
「あ、いや…温泉はお金掛かるし、それでいいよ。」
せっかくの心遣いだと思ってアーサーは答えた。
沈黙が出来た。
うれしいような、後悔したような…お互いなんとも言い難い複雑な気持ちだった。
「えっと…お風呂入れてきますね。」
「…。」
「…。」
一緒に入ったのはいいが、話が続かない。
「あ、温泉と言ったら、お風呂上りに牛乳をビンで飲むんですよ。」
「そうなのか?」
「そうなんですよ。」
なんか強引な説得っぽく感じてしまう菊だった。
「なぁ。」
「はい。」
「もしさ、ここが旅館だったら一緒に寝るんだろ?」
「えっ、ええ。」
「今日だけ良い?」
甘えたような目で見つめられ菊は目をそらしてしまった。
「しょうがないですね。」
熱いのか、照れているのか分からないが菊は真っ赤だった。
「そろそろ上がるか。」
アーサーが湯船から上がったところで手を差し出した。
「すべるなよ。」
「すべりませんよ。」
と言いつつも、アーサーにしがみついていなければ、滑ってまた湯船につかるところだった。
「ほらな。」
「ありがとうございます…。」
「ここで寝るんでしたよね。」
菊の部屋にいるアーサーは障子を開けて月を見ていた。
「ああ。」
押入れの戸を開ける音が聞こえるとアーサーは駆け寄ってきた。
「俺が出すよ。」
アーサーは上から敷布団を下ろした。
菊はシーツを持ってきます。と言って部屋から出て行った。
「菊はいつもこんな重いものを上げ下げしているのかぁ。」
感心しているところ、菊はすぐ帰ってきた。
「そっちの端持ってくださいね。」
「こうか?」
布団を引き終わるとアーサーが言った。
「今日は月が綺麗だ。」
「そうですか。」
二人は障子を開けて月を見上げた。
「満月ですね。」
「まん丸だな。」
夜風に当たっている二人。
「さて、そろそろ上がらないと風邪ひきますよ。」
菊は布団のほうへ行った。
アーサーが布団に入ったのを見て電気を消した。
「お休み。」
アーサーは菊の額にキスを残して布団にもぐった。
「おやすみなさい。」
慣れないことをされて菊ももぐった。